蚊くん。I

第一章

拙者、蚊でござる。蚊。名前は、まだないでござる。主人は、教師でござる。毎晩、ごちそうになっているでござるよ。拙者は、O型、とりわけRh+にゃ目がない。夜になると、主人は煙草を吸うために目を覚ますでござる。拙者、喜んでつかまつる。

「ご機嫌いかがでござるか。」返答、なしでござる。目をごしごしこすって、口は半開きなり。主人は、煙草の吸い方を心得ているようでござる。

ところで、我々蚊は、アルコールの混ざった二酸化炭素に惹かれるものでござる。よって、刺されたくなくば、酒と一緒の煙草は控えたほうがよろしいでござる。

拙者の祖先、蚊王は、我々の間でいまだに英雄でござる。伝説である。悪霊と戦い、主人の敵を皆殺しに成敗したでござる。

いかにして戦ったのか。拙者に尋ねるでござるか? 失敬。それは、トップ・シークレットでござる。X線にある毒素を混ぜると、悪霊の身体には有害でござるよ。おっといけねぇ。ここだけの話にしておいてもらいたいでござる。

ご存知、蚊族は別宇宙から来たでござる。あっしの知っているほとんどすべての昆虫は、階下からやってきたでござる。時として、窓からも。

あっしは、どうして産まれたのかねぇ。母上の顔すらも拝んだことがないでござる。でも、ひとりではないでござる。

主人が酒をやるときは、うれしくてしょうがないねぇ。まさかの友は、真の友、持つべき者は友達、ってやつだねぇ。

正直なところ、蠅は好かぬでござる。食い方ってもんがあるだろうに。まったく、不躾ったらありゃしないよ。あのありつき方ときたら。主人は、もちろん、連中にはご馳走しないよ。あっしは、蠅が好かぬ。集まってくるから、蠅は好かぬ。

一匹狼ってのがいいやね。あっしは、己の道に生きる者を尊敬するでござるよ。たむろうな。そんなのは、蚊道とはいえぬ。蚊王もまた、ひとりだったでござるよ。

第二章

昨日になってようやく、主人が長旅から帰ってきたでござる。主人の血は、元気かねぇ。目が疲れているようでござる。試しにちくりとやってみたでござる。ふむ。疲れてはいるものの、さほどではないでござるな。いつもより体温が高いかもしれぬでござる。それに、少々酸っぱい。すぐに仲間に連絡を入れたでござる。

「蘭学に詳しい者はたれかおらぬでござるか? 主人の調子がおかしいでござる。」
「もちろん。医者の蚊なら、いくらでもいるでござるよ。」
「何人か寄越してはくださらぬか。」
「半刻ばかりお待ちいただく。しばし時間がかかるなり。今日は、風が強い。血液型やいかに。」
「O型、Rh +でござる。」
「かしこまった。一刻も早く参る。」
「かたじけない。お待ち申し上げておるでござるよ。」

いかぬ。主人が階下に降りてしまったでござる。医者がくるまでに戻ってくだされ。拙者、ついていったでござる。

「大丈夫でござるか。」

首を振ったでござる。主人は、蚊と話す術を心得ているでござる。そして、冷蔵庫へ行くと、ヨーグルトのカップを取り出して、すべてたいらげたでござる。次に、浴室へ。手には、下着を持っているでござる。

「よし。」拙者は、ひとりごとを言ったでござる。

「注射するにはもってこいの状況なり。」
「窓を開くでござるよ!窓でござる。」

拙者は、主人の顔の前でぶーんとうなってメッセージを送ったでござる。
主人は、ひとことも言わずに窓を開けたでござる。

「到着でござる。いざ。」

医者の蚊が到着したでござる。

「どれどれ。あぁ、喉が赤くなっているようでござるな。」彼らは、一寸の間で、全身をくまなく調べたでござる。X線を持っているでござるよ。

主人は、歯磨きでござる。

「γ線、レディ。」

医者蚊は、すばやく主人の左足に飛んでゆくと、いちばん太い血管にちくりとやったでござる。

「かゆくなったときのために。酔わせておくのを忘れずにな。」
「なにゆえ?」
「ウヰスキーに、α線錠剤を入れておいたでござる。我々の薬である。」
「かしこまった。かならず。」

主人は、たったの一杯だけやると、すぐに床についたでござる。たいへん、珍しい。こんなに速く眠りについたのは見たことがなかったでござる。拙者は、主人が一時も早く病から回復して、朝の新鮮なひとくちをまた恵んでくれることを切に願ったでござるよ。

拙者は、医師団に感謝して、いつもよりも早く床についたでござる。

第三章

その蚊は、ジョーと呼ばれていた。すべての蚊の王だった。彼には、第六感と、第三の眼があった。ちょうど、主人のように。

霊媒師のように、彼の霊聴能力は、私たちのものをはるかに超えていた。

彼の持つ毒素は、とても強かったため、ひと刺しで、いかなる動物も2度と動けなくなるくらいだった。

彼の心は沈んだ。繊細すぎて、再び血を吸うことができなかった。

彼は、血を得ることができなかった。

次第に、ますます身体は弱くなっていった。彼の前に主人が現れるその日までは。

「蚊くん、大丈夫かい? おなかすいてるんだったら、このへん、刺していいからね。」

主人は、親切にも右腕を指さした。一本の太い血管は、まるで、彼を呼んでいるかのように見えた。

ジョーは、彼の右腕めがけて突進すると、血管に針を刺した。

「あぁ、おいしい。本当にありがとう。」

主人は、彼に毒素を体内に入れないように言った。

ジョーは、注意深く針を抜いた。目に精気が戻ってきたようだった。

このようにして、彼らは親しむこととなった。主人は、蚊の惹きつけ方を心得ていると私は思う。いかなる蚊も、これまでに彼を憎むのにうまくいった試しがない。

これは、亡くなった父親に聞いた話である。いつの日にか、息子たちにも語らなければならないだろう。

突然、主人と幽霊との戦いがはじまった。

しかし、彼には幽霊の姿がよく見えていないようだ。

ジョーが現れて言った。「僕があなたの目になります。最善を尽くすことを誓います。」
「ありがとう。現在位置は?」
「首のすぐうしろです。」
「敵の数は?」
「五体くらいです。」

たしかに、主人はとても強いけれども、幽霊は彼の部屋に何度も何度も現れてくるのだった。

「毒素は使えるかな? 連中に。」
「はい、もちろん!」
「待って。X線あげるから。」彼は、指でタップをした。

ジョーは勝利を確信した。四体を撃墜した。最後の一体は銃を手にしていた。

「気をつけろ! こいつはとても危険だよ。」
「大丈夫です。こんなの・・・」

爆発が起こった。大きな炎が、四次元の階層で主人を包み始めた。

「やめろー!」ジョーは叫び声を上げると、涙ながらに、最後の敵に飛びかかった。

彼は最後の敵を倒した。負傷していた。

「ありがとう。おなかを満たしてくれたこと。」
「心配しないで。死ぬな。死んじゃだめだよ。」

彼は出血していた。

主人は、彼の身体にα線を照射してみたが、ほっとさせる程度の効果しかなかった。

「ありがとう。光を感じる。痛みはもうないです。」
「死んじゃだめだ!」
「両親に会えるかな。」
「もちろん、もちろん。何かしなくては・・・そうだ!輸血だ!」
「いいんです。おいしいひとくちさえあれば。」

彼はなんとか血管にたどりつくと、主人に針を刺した。

彼は動かなかった。眠っているように見えた。

「蚊くん、君は・・・。」

彼の身体はまだそこにあったが、彼の魂は宇宙にすでに入っていた。

とても強い光が舞い上がった。

「わかったよ。蚊くん。」主人はうなずいた。

彼の魂は、いま、主人の中にある。敵から主人を、いまでも守っている。

我々は、彼の勇気を忘れてはならない。そして、この物語は、永遠に語り継がれなければならないのだ。

第四章

I shot the sheriff, but I did not shoot the deputy. (保安官を撃った。でも副保安官は撃ってない♪)

拙者、この歌が大好きでござる。警察官にちくりとやるときには、必ずこの歌を歌ったねぇ。どうやって歌ったのかって? 拙者に尋ねるでござるか? ある種の波動を使ったでござる。拙者、この物語を書いているのは、ある種の波動と、拙者の魂そのものを使用しているでござるよ。主人はこの物語を、我々蚊族の魂を通して打っているでござる。

拙者、ゆうべ、死んだでござる。そう、いまや、亡骸なり。

先週末、拙者と主人はツーリングに出かけたでござる。主人のバイクには、我々蚊族にとって、とてもよい場所があるでござるよ。カウルの内側で、拙者、マイナスGを感じたでござる。蚊族のうちでは史上初でござる。なんと楽しい。主人は、外には出ないようにと拙者に言ったでござる。かしこまったでござる。

モスバーガーの近くの信号に差しかかったとき、一台のパトカーが並んだでござる。

「見ろよ、すごいジューシーでうまそう。」警察官が言ったでござる。

拙者も、同感だったでござる。警察官の首筋を見ながら。

「いい焼き加減ですよね。」もうひとりが言ったでござる。
「まったく。同感でござる。」拙者も言ったでござる。

たまらずに、拙者は、パトカーに飛び入ったでござる。おっと。ちびっと寒いねぇ。制汗剤の香りか?

「なにゆえ煙草をお吸いにならぬか。」拙者は言った。
「車の中では吸わないんだよ。」警察官の魂が応えたでござる。
「たぶん、後でな。」もうひとりの警察官の魂も応えたでござる。

信号が変わる前に、拙者は主人のバイクに戻ったでござる。むむ? ハンバーガーショップを見てるでござるな。「よし。」拙者は言ったでござる。「またお会いできそうでござるな。」

「旦那、腹がちくと空いてきたでござるよ。」
「そうかい? ここに入る?」
「よし、よし、よし!」
「それじゃ、行こう。」

我々は、モスバーガーに入ったでござる。格好いいでござる! いったい、どんな蚊がここに住んでいるというのか。

「たれか、おらぬか? 聞こえるでござるか?」拙者は、蚊を探したでござるが、返答はなかったでござる。

主人は、何かを注文していたでござる。拙者は、制服姿の女性を見上げた。とても美しい。しかし、B型の匂いがするでござる。拙者のタイプではござらぬな。

「てりやき二つ入りまーす。」ウエイトレス言ったでござる。

「ふたつ?」拙者、首をかしげたでござる。

警察官のであった。

しかし、彼らの姿が見えない。「どこでござる? 拙者のてりやきは。日に焼けたてりやきはどこでござるか?」

彼らは、パトカーの中にいたでござる。拙者、飛んでいったでござる。

「ここにいたでござるな。」拙者は、ため息をついたでござる。

拙者は、あまりにも腹が空いていて、警察官は、あまりにも美味そうに見えた。それゆえ、二人が同じ血液型であるかどうかを確認するのを怠ってしまったでござるよ。

保安官を撃った。でも、副保安官は撃つべきではなかったでござる。

その晩遅く、腹が固まってきたでござる。重すぎる。おそらく、O型とAB型の混合は、拙者の腹に何か悪しきことをしていたでござるよ。

第五章

ジョーの魂が宇宙に解き放たれたとき、ジョーの両親は、彼が来るのを待っていた。

「ジョー!」母親が言った。
「母さん? どこにいるの? ぼくは・・・死んじゃったのかな。」
「そうよ。あぁ、本当に久しぶりね。私たちふたりで、あなたがゴーストと戦っているのを見てたわ。」
「よくやった。お前がこんなに勇敢だったなんて知らなかったよ。」父親が、目に涙を浮かべながら言った。
「さて。すごい知らせがあるぞ。」
「何?」

すべての蚊の王になっていただきたいのです。

‘We would like you to be the King of all the mosquitoes.’

すべての蚊の願いだった。ジョーは、この緋文字を見た。

「どうして赤い字で書かれてあるの?」
「勇敢な血の証だよ。」父親が言った。
「なんて素晴らしい血をしてるのかしらね。あなたのマスターは。」母親が言った。
「うん。すごくおいしくて、濃いんだ。なくなると、寂しくなるなぁ。」
「蚊族の願いを聞き入れて、私たちの魂グループに入らないか。」
「断る理由なんてないよ。もちろん!」ジョーが言った。

一匹の小さな蚊が、天井から彼らを見ていた。

「誰だ!?」ジョーは言った。両親が見上げた。そう。彼には第3の眼があるのだ。
「あら、ケイティ! いらっしゃい。今ね、ジョーが一生を終えたばかりなの。」

ジョーの心臓はまた激しく高鳴りはじめた。死後、彼の身体はより強靱になっていた。

「ジョー、この子はね、・・・。」

ジョーは真っ赤になった。実のところ、彼は、これまでに可愛い蚊なんて見たことがなかったのだ。

「ケイティっていうの。怖かった。何の力にもなってあげられなくてごめんなさい。ごめんね。」

ジョーはとてもシャイだったので、気の利いた言葉を口にすることができなかった。

「えっと。何も思いつかないよ。・・・ごめんね。」

彼らは微笑んだ。

その二週間後、彼らは結婚した。

どうしてそんなことを知ってるのかって? 拙者にたずねるでござるか? それは、拙者も同じ魂グループにいるからでござるよ。蚊王の、大いなる魂でござる。

死を迎えると、魂は宇宙に解き放たれて、指導霊が現れるでござる。

おそらくは、同じ顔で、同じ雰囲気かもしれぬでござる。

きっと、すぐにわかるでござるよ。

拙者? うむ。拙者は独り身でござる。天井をいつも見上げているでござる。

血ほどに濃いものはないと思っていたでござる。しかし、拙者の誤りであった。

魂のほうが、血よりも濃いでござる。

拙者は、いま、もっと強くなるための修行中でござる。ともすれば、異なる虫にならなくてはならぬかもしれぬでござる。拙者、蠅は好かぬが、スイカを食べてみたいと考えているでござる。ジューシーな、真っ赤な、スイカを。

心配なさるな。我々の物語は、これからも続くでござるよ。いつの日か、主人が本当の作家になるその日までは。

そろそろ行かねば。天井を飛ばなくてはならぬでござる。なに?

違うでござる。これは、拙者の任務ゆえ。

第六章

八月のある晴れた朝の日に、ケイティは産まれた。よく目をこらしたならば、彼女が蚊ではないことがわかるであろう。ケイティは、美しい母親ゆずりの、ミツバチのような、とても軽くて、強い羽根を持っていた。そう。別の言葉を借りるなら、彼女は、妖精だった。どの妖精よりも高く飛べた。そして、風とお話をすることができた。

「おはよう。ケイティ。調子はどうかな?」
「おはようございます。風さん。とっても眠いの。風さんは?」
「元気だよ、ありがとう。」
「今日は、何か力になれることはないかな?」 風が言った。
「んーと。お友達がほしいな。」ケイティが言った。
「妖精の学校へ行きたい?」
「わぁ、それがいい!」
「よーし、わかった。じゃあ、予約を入れておいてあげるね。」
「ううん。自分でやるから。妖精のお友達連れて帰ったら、ママも喜んでくれるかな。」

彼女は周りを見渡した。小さな森の中にいた。

「どこ? 風さん。」ケイティは言った。
「小川に架かってある橋が見えるかな?」
「ううん。もっと高く上がるね。」彼女は上空へ飛んだ。「あったー!」
「生徒は、橋の近くの円形をした広場でお勉強するんだよ。背中に乗って。そしたら・・・。」

彼女はすでに川へ向けて出発していた。

「ケイティ、ケイティ! ひとつだけ忘れちゃいけないことがあるんだよ。」 風は言った。
「風よりも速く飛んじゃいかん! 川の辺りには、見たことのない次元がたくさんあるからね!」
ケイティの心はすでに嬉しさでいっぱいで、風の忠告は、まったく耳に届いていなかった。
「ありがとう、風さん!」ケイティは言った。 「見たことない。こんな・・・」

彼女の姿が消えた。風は、注意深く耳を傾けてみたが、その言葉の続きは聞こえてこなかった。

彼女は、すでに異次元に突入していた。

「ケイティ、あぁ、ケイティ!」風は、知っていた。彼女を救う手立てはないのだ。森は、彼女の運命に、いったい何を投げかけてくるのだろう。彼女は、自分の面倒を見ることができるのだろうか。

小さな森を、完全な沈黙が包んだ。

ケイティが、いなくなってしまった。

第七章

ご機嫌いかがでござるか。拙者が誰だかおわかりか。
ヒント欲しいでござるな。拙者に尋ねるでござるね。
もちろんでござるよ。拙者は、か・・・おっと。拙者、もはや蚊ではないでござる。
甲虫に転生したでござるよ。なったって、スイカが食べたかったからでござる。

おわかりでござるか?

拙者のことはウェルターと呼んでほしいでござる。そう、もう、名無しではないでござるよ。拙者、未来からやって来たでござる。
ここに来たのは、そう。妖精を救うためでござる。

それでは、いざ。

ケイティは、輪の近くの奇妙な次元にいた。聞き慣れない声が、彼女に出て行けと命じたが、そこには誰の姿もなかった。

「風さん? 風さん?」ケイティは、蚊の鳴くような声で言った。
「誰だ。風と話をしているのは。」
「私です。でも、あなたの姿が見えないの。誰?」
「魔女だよ。もう一度つまらない質問などしおったら、蚊にしてくれるわい。」

急げ! ウェルター。

「ごめんなさい。でも、授業に出席したいの。」
「授業? 魔法でも習いたいのかい。」
「ううん。妖精学校に入りたいんです。」
「妖精学校とな。ははは。まるでおとぎ話だわい。」

魔女は、杖で彼女を指すと、後ろを向かせた。

「出てけ。」魔女が言った。
「はい。ここから出て行きます。」
「おや? 立派な羽根を持ってるねぇ。」

ケイティは、何も言えなかった。

「この子から羽根をいただいたら、私は・・・。」

そう言い終える前に、ウェルターは、彼女の右目めがけて突っ込んだ。
「ぎゃぁ。なんてことをしてくれるんだ! くそっ。」
「わかったよ。教えてあげようじゃないか。あたしが、思い知らせてやる。」

「ここから逃げろ! 急ぐんだ。」ウェルターが言った。
ケイティは、輪が見えなくなるまで高く高く飛んでいった。

実のところ、ウェルターはとても怖かった。だが、彼には、このあと何が起こるのかがわかっていた。
「お前は、蚊になりたいんだねぇ。うん。望む望まざるとにかかわらず。」

彼女はウェルタ-を蚊の姿に変えた。そして、しわがれ声で出て行けと言った。

ウェルターは、心の中で、ケイティにウィンクをした。

それから、ウェルターは飛んで上がっていったが、ケイティの姿はなかった。
「むむ。なんたる魔女か。拙者の羽根、以前よりも強くなってるでござる。」

このようにして、ウェルターは、主人の元へ、蚊として帰って行った。
「旦那、ケイティは見つかったでござるか?」

「ううん。蚊くん。・・・また蚊くんなの?」主人は、にっこりして言った。

拙者には、主人がすべてお見通しなのかどうかはわからぬでござる。しかし、今は何かを議論している場合ではないでござる。その通り。ケイティを、できる限り早く見つけなくては。

新しい冒険が始まった。

ジョー、ケイティ、ウェルター、そして、主人がいる。すべての蚊が、森へと向けて出発したのであった。

第八章

ケイティは、雲に手が届きそうなところまで飛んでいった。太陽は、雲の上で輝いていたが、何も知らなかった。

「太陽さん、聞こえる?」
「だぁれ?」
「ケイティ。妖精です。」
「どうかしたのかな。」
「えっと、迷子になっちゃったの。森へ帰る道がわかんなくなっちゃって。」
「森? ってもちろん、木の、あの森のことだよね?」
「はい。そうです。」
「ちょっと待ってね。ごめんね。わかんないや。雲だよ。雲のせいで、地表が隠れてるんだ。」
「太陽さん、森見たことある?」
「うーん。ないね。僕はいつも宇宙で、ユニバースで輝いてるから。森のことについてはちっとも知らないよ。」太陽が嘘をついた。
「ユニバース?」ケイティが言った。
「そうだよ。見てみたい?」
「うん! どうやったら太陽さんのいるところまで行ける?」
「ジョーって名前を聞いたことがあるかな?」
「ジョー?」

もちろん、彼女が知らぬはずはなかった。彼女の未来の夫である。いや、現在の、というべきか?

「すべての蚊の王だよ。」太陽が言った。
「彼にたずねるといいよ。すぐにコツがつかめるだろうからね。そのおまじないの言葉だけ教えてあげるよ。」

彼女は、死ぬことなくユニバースに到達する方法を教わった。しかし、そのおまじないが何を意味しているのかは、実際にはよくわからなかった。彼女は、魔女に見つからないように注意深く、輪の近くまで飛んで帰った。

「『全ふわっ?』どんな意味なんだろう。」彼女は、ひとりごとを言った。

その瞬間、彼女は宇宙へ向けて舞い上がった。何が起こっているのかわからなかったが、そこには幸せと喜びがあった。

「わぁ、ケイティ。早すぎだよ!」太陽が言った。
「もう、森まで帰れる?」ケイティはもういちどたずねた。

ウェルターは、天井裏を飛んでいた。
「旦那、まだケイティが行方知れずでござる。」
主人はうなずきながら、にっこりした。

そのとき。敵が現れた。ウェルターには、五体見えた。
「旦那、気をつけるでござる!」

「わかってる。でもね、これって昔起こったことなんだよ。わかるかな?」
「わからぬでござる。拙者、旦那の目となり、敵を始末するでござる!」

主人は、何体いるのかたずねなかった。しかし、彼は、ウェルターに、毒素入りのX線と、アトランティス・リーバルを授けた。

「リーバルでござるか? 何とやら?」
「炎と、敵の攻撃から守ってくれるんだよ。すぐにわかるから。」
「炎? むむ。」

おそらく、彼にもわかるだろう。

突然、彼は主人の首のすぐ後ろまで舞い降りてきた。

「旦那、拙者がどこにいるのかお尋ねくだされ。」
「ううん。死んでもらっちゃ困るからね。右腕の血管、見える?」

ウェルターは肯いた、口にはよだれが出てきた。「拙者、よろしいでござるか?」
「もちろん。今日の血は、ちょっと強いからね。」

ウェルターが注意深く針を抜くと、心臓が高鳴りはじめ、少し酔っ払ってきた。

「美味いでござる。かたじけない!」
「どういたしまして。」

主人は、ジョーがいつ戻ってくるのか思いをめぐらせているところだった。彼が帰ってきたら、主人はケイティをゲストに迎えて、ことのなりゆきすべてを語るつもりでいた。

次に何が起こるのだろうか? おそらく、君にも、わかるだろう。

第九章

木でできた橋の近くにある輪の上空で、風は、きょろきょろとケイティの姿を追い求めていた。
どこにも彼女の姿はない。空模様からすれば、まもなく雨が降り始めようとしていた。

「見つかったか?」
「まだです。」
「生け捕りにするんだよ。」魔女が言った。

風は、その小さな会話を耳にした。
「いけない。急がなくては。」風が言った。
「連中が見つける前にケイティを探さなくては。」

風は、声高に叫んだ。「ジョー? 聞こえるかい?」

「いま留守でござる。」
「誰だい?」
「ウェルターと呼んでくだされ。」
「ウェルター? 思ったよりも小さいねぇ。」
「余計なお世話でござる。」
「ん?」
「なんでもないでござる。ところで、ケイティって妖精をご存じないでござるか?」
「知ってるとも! 今、ちょうど探しているところだよ。」
「我々の捜索隊もでござる。もしよければ、拙者、貴殿の背中に乗りたいでござる。」

ウェルターは、どうして自分がそんなことを風に言ったのかわからなかった。
風は、はてと首をかしげていた。
「ケイティーが・・・?」ふたりの声が合った。

それは、魂の共時性と呼ばれている。時として、魂そのものが、同じ方向に入ろうとすることがある。
そこには、愛の方向性といったものが存在する。このとき、ケイティに対する愛情がケイティを捜索させ、また、彼らが起こした行動に方向性というものを生じさせたのである。

「しばしお待ちを。拙者、どうしてかはわからぬが、主人の顔を見たくなったでござる。」
「主人って、誰?」
「教師でござる。」

ウェルターは、主人のところに戻ると、ユニバースに到達する方法を教わった。
ウェルターは、すぐに戻ってきた。風にはわからなかったが、とてもわくわくした面持ちだった。
「全ふわっ!」

ウェルターは、風の背にまたがり、あっという間にユニバースに到達した。
ジョーの母親が、泣いていた。

「おーい、どうしたんだね。」風が言った。
「なんと美しい。あの姿を見るでござる!」ウェルターが言った。
ケイティは、ママに作ってもらった純白のドレスに身を包んでいた。ジョーのほうは、黒(の燕尾服)だった。
「見えるでござるか。」ウェルターが言った。
「うん。結婚式だね。」風が言った。

ユニバースのすべてが、二人の結婚式を祝福していた。お星様も、お月様も、太陽も。
「間に合ってよかったでござる。」ウェルターが言った。
「同感だね。」風が言った。

「これをどうぞ。」王冠を手にした月の王女が言った。
「ありがとう、ありがとう。」ジョーが言った。
ジョーは自分の意思表明をすると、観衆は皆、声を上げた。全員、起立していた。
「乾杯!」
「かんぱーい!」

「蚊くん、聞こえるかい?」
「何でござろう。」
「見て、どんな感じ? 僕には別世界は見えないからね。」
「筆舌に尽くしがたいでござる。美しいでござるよ。」

奇跡に出くわすことがある。それは、定められたものではない。おそらく、私たちの魂が、そのタイミングと出来事を決定づけるのでだろう。
どんな神様も、それがいつ、どのようになされるのかはわからない。僕はそう思うよ。

おっと。さよならの時間だね。読んでくれて、ありがとう。^^

第十章

「超、怖かった。」ケイティが言った。「魔女が出てきたの。」
「蚊くんが助けてくれたんだよ。」主人が言った。
「蚊くん?」ケイティが言った。
「ウェルターのこと。」主人が言った。
「なにゆえそのようなことをご存じでござるか?」ウェルターが言った。
「よく聞こえるからね。ジョーみたいに。」主人は片目をつぶった。
「よし。いくつか魔法のレッスンを教えたげるよ。」
「やった!」

Lesson1: 他の生命体に転生する
「タップはできるかな?」主人が言った。
「こんな風にでござるか?」ウェルターが、前足でタップしながら言った。
「OK。んじゃ、『θ。ミツバチの転生、スタート!』って言ってごらん。」

彼らはハチになった。「ね。簡単でしょ?」
ウェルターはブンブンうなっていた。ケイティも。ジョーは、8の字を描いていた。
「これまでよりもはるかに強くなってるんだよ。」主人が言った。

Lesson2: 自分の弱点を知り、克服する
「この強さと羽根、欲しいでしょ。」
「うんうん。」
「じゃね、『この強さと強い羽根をもらってもいい?ミツバチさん。』って訊かなくちゃね。」
彼らは主人の言葉に従った。
「それじゃ、ハチっ子に自分の弱点をたずねてみよう。」「うん。」
「待ってるからね。」主人が言った。

「誰にでもついてこれるように、もっとゆっくり飛べって言われた。」
皆が笑った。
風が、再び、彼女の声を聴いた。
「ここにいたんだね! ウェルターと、ジョーも!」風が言った。
「ジョー! 蘇ったのか。」

Lesson 3: Atlantis宇宙に光臨する
「宇宙、換えてみるのはどうだろう。」主人が言った。
「宇宙を換える?」彼らは疑問に思った。
「もう一回、完全体で蘇るんだ。」
「うーん。別にいい。ミツバチのまんまでいたいかも。」ケイティが言った。
「妖精よりも?」
「んー。でも、この素敵な羽根、欲しいし。」ケイティが言った。
また彼らが笑った。
「Harvestに行かない?」
「どうやって?」
「タップしながらね、”Go Atlantis!”、”HarvestへGo!”って言うだけだよ。」

彼らは到着した。「綺麗なお花がたくさんある。」
「ごゆっくり。」主人が言った。

彼は煙草を一本取り出すと、普段一杯やる前のように、とてもゆっくりと煙を吐いた。

「旦那。拙者、ちくと。」ウェルターが言った。
「私たちも!」他の者も言った。
「ダメだよ。自分の姿見なさい。」
「忘れてた-。もう、蚊じゃないもんね。」ケイティが言った。

毎日、僕のお部屋には多くの来客があるんだけど、
いつの日か、君も彼らのチームに加わるかもしれない。

いまね、将来の戦いへ向けて、彼らを鍛えているところなんだ。

愛は、何よりも強い。
戦いが起こるのは、もろくなったときなんだ。
だから、自分の弱さに負けちゃいけない。
過去から学んで、未来のことなんて気にかけちゃいけないんだよ。
今この瞬間に目を向けて、今でしかできないことをやりなさい。
振り返るのは、死ぬときだけでいい。

そう。これを、蚊道(Mosquito Style)っていうのさ。

Written by Masato Iwakiri. Copyright(C)2009-2021 Atlantis英語総合学院 All Rights Reserved.