天麩羅。(後編)

「集金? ありゃ。持ってきちゃったのかい。」おじいちゃん。
「うん。なんか怖かったから。」亜沙子。
「泣くことないだろ。ほら、どうした?」おじいちゃん。
「だって。」亜沙子。
「創業70年だよ!浮気しちゃダメじゃない。」亜沙子。
「私の中で一番おいしい天ぷらなの!」亜沙子。
「それなのにおじいちゃんがそんなこと言っちゃダメだよ!」亜沙子。
「いいかい亜沙子。」おじいちゃん。
「これには研究と勝負がからんでるんだよ。」おじいちゃん。

「ぎくっ!」若旦那。

「研究?」亜沙子。
「同じものを売ってるわけじゃないんだ。どこかで比較が生じる。」おじいちゃん。
「そしたら、『ここはこっちのがよくって。』『ここはこっちのほうがいい。』ってのが出るだろ?」おじいちゃん。
「それを調べに来てるのさ。」おじいちゃん。
「うちは全員で来たよー!」おじいちゃん。
「いや参りました。^^;」若旦那。
「よかったら今度ご馳走しますよ。」おじいちゃん。
「えーと。いいのかな。」若旦那。
「どうぞご遠慮なく。」おじいちゃん。
「じゃ、今日のお代はいいですよ。」若旦那。
「ほら亜沙子お前も座れ。」おじいちゃん。
「はい。^^」亜沙子。
「あと一膳お願いします!」おじいちゃん。

すぐにやってきた。

「いただきます。くすん。」亜沙子。
「あ。」亜沙子。
「イカがいい。」亜沙子。
「そうだろう! おじいちゃんもそう思ってたんだよ。」おじいちゃん。
「あとは見た目どう違うか答えてみろ。」おじいちゃん。
「んー。茄子の切り方と。」亜沙子。
「天つゆの色が違う。」亜沙子。
「まぁよくできたわね。」おばあちゃん。
「どっちが美味い?」おじいちゃん。
「後ででもいいぞ。」おじいちゃん。
「わかった。あとで。^^」亜沙子。

亜沙子はにっこりしていた。

いつか。いつの日か。

亜沙子も一緒に天ぷらを揚げる日がくるかもしれない。

そのときのために、おじいちゃんは、研究心と、ライバルとの人付き合いを教えてあげたかったのだ。

いついなくなってもいいように。

おじいちゃんは小声になった。

「いいか亜沙子。」おじいちゃん。
「今日のお代はいいんだって。^^」おじいちゃん。

そして声のトーンがまた高くなった。

「いやぁ美味しかった!」おじいちゃん。
「今度はごちそうしますよ。^^」おじいちゃん。
「来てください。」亜沙子。
「是非是非、お越しください。」おばあちゃん。
「負けないくらい美味しいの作りますからね。」おじいちゃん。
「勝負だ。」おじいちゃん。
「勝負っすか。あはは。」若旦那。
「胸を貸していただくつもりで。」若旦那。
「よし!よく言った。」おじいちゃん。
「それじゃ、ご馳走になるよ。」おじいちゃん。

亜沙子が食べ終わるのを待って。

三人は店の敷居を再びまたいだ。

お月様が出ていた。

「いや、美味かったなー。」おじいちゃん。
「おじいちゃんたら。^^」おばあちゃん。
「ねーねー。もしかして。」亜沙子。
「ただで企業戦略ができた。」おじいちゃん。
「あはは。」亜沙子。
「なんか悪いよ。」亜沙子。
「これは男同士の勝負だからね。」おじいちゃん。
「より美味しく作ってご馳走したほうの勝ちなんだよ。」おじいちゃん。
「ふーん。^^じゃ、負けらんないね。」亜沙子。
「どう思った? 勝敗は?」おじいちゃん。
「おじいちゃん!」亜沙子。
「の?」おじいちゃん。
「勝ちー!」亜沙子。
「わはは。ありがとう。^^」おじいちゃん。
「あれ?」亜沙子。
「かーさんは?」亜沙子。
「あーなんか心苦しいとか言って。」おじいちゃん。
「先に帰ってったぞ。」おじいちゃん。
「食べればよかったのにねぇ。」おばあちゃん。
「なんかさ。うちってさ。」亜沙子。
「どっか似てるよね?」亜沙子。
「負けず嫌いで、ってか?」おじいちゃん。
「あはははは。」おじいちゃん。

夜風に、風鈴の音があちこちで響いていた。

勝吉は、白髪交じりの短髪で頭を掻く前に。

亜沙子の頭を撫でてやった。

完。

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